痛みの感じ方で変わる腰痛のしくみ
腰痛と一言で言っても、全く動かせないほどの激痛の時もあれば、痛みはそれほど強くないのに絶えず重苦しくつきまとうような痛みを感じることもあり、様々だと思います。今までも急性の痛みと慢性の痛みの違いについて触れたことがありましたが、今回は更に詳しく、痛みの感じ方の違いがどのようにして起きているのかについて書いてみようと思います。
筋肉が原因の痛みは2タイプ
筋肉がロックしていることによって起きる痛みは大きく分けると2つあります。一つが伸びないことによる痛み。そしてもう一つが、筋肉が硬く太くなることによって起きる血流不足からくる痛み。
筋肉が筋拘縮になると、筋肉は縮んだまま伸びなくなってしまいます。このような状態の筋肉は硬く縮んだ状態をキープしていますので、無理に伸ばそうとしても伸びることはありません。硬くなった筋肉を無理に伸ばそうとすると、ほとんどの方がその硬くなった筋肉自体に痛みを感じると考えておられると思うのですが、厳密に言うとちょっと違います。硬くなった筋肉は無理やり引っ張られても痛みが発生することはありません。硬くなった筋肉は一言で表すと「守る」ために硬くなっていますので、硬くなっている時は実は痛みを感じにくいのです。注射を打たれる時など、痛みが発生しそうな時は、ついつい腕に力が入ってしまいますよね。これは筋肉に力を入れると、痛みをあまり感じずに済むので、無意識のうちに腕に力を入れているのです。
力を入れている筋肉、つまり硬くなった筋肉はこのように痛みを感じにくいのですが、その周りの筋肉や腱は違います。硬くなった筋肉は自ら縮んでしまっているので、腱や他の伸び縮みできる周りの筋肉を引っ張ってしまいます。この引っ張られた時に伸びることができる筋肉が痛みを感じているのです。
筋肉がガチガチに硬くなっている人は、無理にその筋肉を伸ばしても痛みは発生せず、可動域だけが極端に悪くなっている人が多いのもそのためです。
ただ、同じ筋肉の中でも硬くなっている箇所と通常通り伸び縮みできる箇所が混在していることがありますので、この場合は先ほど説明したような現象が同一の筋肉内で起きます。また、筋肉が硬くなってくると、筋肉と骨の付着部に極端に負荷がかかりやすくなりますので、硬くなった筋肉の骨の付着部付近も痛みを感じやすいです。硬くなっている箇所そのものに痛みが発生しているわけではないと言うと、ちょっと不思議に思われるかもしれませんが、これも施術を通して見えてきたことの一つです。
もう一つの痛みは、血流不足からくる痛みです。硬くなった筋肉は力こぶを作っているのと同じ状態ですので、硬く太くなっています。そのような状態の筋肉が増えてくると、毛細血管が圧迫されて血流が悪くなってしまいます。今回の主役は、この血流不足から発生する痛みです。
痛みに関係のある2つの物質
血流不足になると、栄養や酸素をきちんと細胞に届けることができなくなるので、非常に困ったことになります。そこでその状態をなんとか解消しようと、血管を拡張して血流を促進しようとする働きのある化学物質を生成し始めます。それがブラジキニンという物質です。この化学物質は血流を促進させる働きと同時に、「ここが困ったことになっていますよ!」ということを脳に知らせるために痛みを感じさせるメッセージ物質でもあります。
ここまでの話は、過去の記事でも何度かお伝えしたと思いますが、実はブラジキニン以外にももう一つ、筋拘縮になった時に生成される化学物質があります。
それがプロスタグランジンです。
プロスタグランジンは炎症物質ですが…
プロスタグランジンにもいくつか種類があり、ケースによっては全く逆の働きをすることもあります。ここでいうプロスタグランジンとはPGI2とPGE2のことです。
この物質は、強い血管拡張作用があると同時に、ブラジキニンとコンビを組んだ時にブラジキニンの痛みを激痛に変えるという能力を持っています。通常、けがなどをして炎症を起こしている時に活躍する物質なのですが、筋肉がロックした場合も発生していると考えられるのです。ただ、ブラジキニンのように、血管が圧迫されていれば絶えず生成されているわけではなく、どうやら急激に大量の筋肉が筋拘縮になった場合に発生しているようです。今までの経験から、急激に筋拘縮になった筋肉が多ければ多いほど、それに比例してプロスタグランジンが発生していると私たちは考えています。
本当に肉離れ?それとも急性の筋拘縮?
急性の筋拘縮の場合は、怪我などのように大きな組織の損傷があるわけでないので、プロスタグランジンさえ流れ切ってしまえば、ブラジキニンとのコンビが解消されますので痛みは楽になります。一方怪我などのように組織が損傷している場合は、その箇所の修復がなされるまでプロスタグランジンなどは生成され続けます。これが、急性の筋拘縮と怪我をした時の大きな違いです。例えば肉離れと診断された場合でも、急性の筋拘縮の可能性があるのです。
内出血は確認できないがストレッチ痛がある。ただ翌日からはリハビリ可能。約2週間でスポーツなどに復帰できる。
このような場合は肉離れというよりも急性の筋拘縮ということになります。
また、筋拘縮が肉離れの原因となっていることが多いので、これよりも酷い症状でも、怪我の痛みと上記の急性の筋拘縮の合わせ技で痛みを感じていることが多いです。この場合は、怪我の回復を待ってから筋拘縮を解除するという方法をとります。
筋拘縮している筋肉の量によって、痛みの感じ方が変わる
急性の筋拘縮をすると激痛になる理由はこれでお分かりになったと思うのですが、同じ急性の筋拘縮でもじわじわと痛みがひどくなるケースもあれば、すぐに激痛になるケースもあると思います。この違いはどうして起きるのでしょうか。ここでも理由は2つあります。
1つ目の理由は、プロスタグランジンの特性。PGI2は発生した直後に痛みを感じやすく、PGE2は少し時間を置いてから痛みを感じやすくなると言う特性があります。
2つ目の理由は、もともと筋拘縮になったのが多い筋肉の量。それほど筋拘縮になった筋肉が少ない状態で一気に筋肉が筋拘縮になった場合は、急性の筋拘縮になった直後から激痛が走ることが多いです。
一方もともと筋拘縮になっている筋肉が多い場合は、そもそも一気に筋拘縮になる筋肉の量が少なくなる上、もともと筋拘縮のある筋肉が血管を圧迫して血流を悪くしますので、プロスタグランジンの拡散がゆっくりとなります。そのため筋拘縮になった直後は大したことないのに、じわじわと痛みが強くなることが多いのです。
ぎっくり腰も急性の筋拘縮
急性の筋拘縮についてはぎっくり腰が非常に分かりやすいので、ぎっくり腰を利用して説明してみましょう。
初めてぎっくり腰を起こした時は激痛になりやすいです。これは一気に筋拘縮になる筋肉の量が多いからです。痛みはひどいですが、3日~1週間ほどで、プロスタグランジンが流れ切って痛みは治まってきます。プロスタグランジンが存在してる時は、筋肉を硬くする作用がありますので、プロスタグランジンが流れ切ってしまえば若干筋肉は弛緩します。この若干弛緩した状態でも筋拘縮によって血流不足は起きていますので、ブラジキニンは多少発生しています。ただ、この時点では痛みを感じるほどの血流不足は起きていませんので、プロスタグランジンとのコンビが解消されると、痛みはほとんど感じなくなります。
ぎっくり腰を繰り返していくと、もともと筋拘縮のある筋肉の量が増えてきますので、ぎっくり腰になった時の痛みの感じ方が、激痛というよりもピキッとなってからじわじわと痛みが出てくるパターンに変わってきます。プロスタグランジンが流れきるまで時間がかかるようになってきますので、痛みが継続する期間が徐々に長くなってきます。さらにぎっくり腰を繰り返して筋拘縮のある筋肉が多くなると、プロスタグランジンとコンビを組まないと表に現れなかったブラジキニンの痛みそのものが強く表に出てきますので、プロスタグランジンが流れ切っても常に重い痛みを感じるようになります。これがいわゆる慢性腰痛ということになります。
ちなみに、ひどいぎっくり腰になった時は少しでも動くと激痛が走りますが、楽な姿勢をとってじっとしていると痛みは感じません。もし、ぎっくり腰で体の組織に損傷が起きているのであれば、じっとしていてもズキズキと痛みが出るはずです。これは組織が損傷して炎症を起こしているのではなく、急性の筋拘縮によって発痛物資が生成されたため、このようなことが起きるのだと考えられます。じっとしているとプロスタグランジンやブラジキニンが流れにくいので痛みを感じないのですが、少しでも動くとこの二つの物資がパッと拡散するので強い痛みを感じるのです。
ぎっくり腰などの急性の腰痛、肉離れ、寝違いなどは急性の筋拘縮の可能性
ロスタグランジンとブラジキニンにいくら血管拡張作用があるとはいえ、血管を圧迫している筋拘縮の方が圧倒的に力が大きいので、筋拘縮が解除されない限りは血流が悪い状態が続いてしまいます。軽い肉離れやぎっくり腰、ちょっとした動きでピキッと走る痛みは急性の筋拘縮の可能性が非常に高いですので、筋拘縮を解除しない限りは、それらの症状は定期的に繰り返してしまうことになります。一度でも急性の筋拘縮になったことがある方は、その後急性の筋拘縮を繰り返し起こしてしまいますので、たとえ痛みを感じなくなったとしても筋拘縮を解除するようにしてみてください。
ご自身でも筋拘縮を解除する方法を紹介していますので、気になる方は